musica崩壊
彼は大いに憤っている。
それは、サカナクションのライブの影響によるふくらはぎの痛みが、昨日より一層強くなっているからだけではない。
彼が憤っているのは、彼が住む田舎の町の音楽シーンに対してである。
今日店に並ぶはずのアジカンとやくしまるえつこのシングルが、店にない。
少し遠くの店に電話をしてみても、「予約分しか入荷していない」とのこと。
どういうことか。
彼の田舎にあるCDショップは、すべて同じ系列のチェーン店なので、競合がいない。
つまり消費者には選ぶ余地がない。
そのため店側は明らかに日本のメディアのシーンのど真ん中にいてある程度の売り上げが確実に見込める商品しか置かないようになってきている。
さらに、最近売り上げの落ちていると言われるCDの販売スペースをどの店も如実に減らしてきているため、その傾向に輪をかけて販売種類が減っている。
予約分しか入荷しないのなら、CDショップなど必要ない。
アマゾンがあれば十分である。
しかし、それでいいのか。
CDショップにおける人と音楽との出会いには、いろいろな出会い方があるはずだ。
目的のCDの横にあったCD、同系列でオススメされているCD、店でかかっていてたまたま聞いたCD、ジャケットに目を惹かれて買うCD…。
店でそれができないのならば、たくさんの人が、未だ聴かぬ音楽との出会いを果たすことのできぬまま生きていくことになる。
確かに、余分なCDは入荷しない方がエコなのかもしれない。
確かに、CDなんて買わずにダウンロードした方がエコなのかもしれない。
確かに、確かに、確かに…。
ほんとうに?
人と音楽が出会う機会が、人為的に、減らされている。
結局彼は、川を渡った向こうにある店舗で目的の商品を買うことができたが、そこの店の対応も、電話で彼が在庫を確認した後、取り置きを頼む前に店員が電話を切るというていたらく。
他の店があればそんな店でなど絶対に買いたくない。
彼は、彼の住む田舎の音楽シーンを憂う。
そして、「いつかマニアックなCDショップをこの田舎に!!」
という淡く薄い希望と決意を、足して水で割ったような思いを抱いた。
そして、ぽろりと本音をこぼした。
「タワレコ欲しい・・・いや、もうHMVでもJEUGIAでもなんでもいいから…」
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