近況

彼の近況は、私が記さなければ世に出ることはない。


そうして、特に世に出すようなこともなければ、そのような情報を収集している人もおらぬであろうことを鑑みると、わざわざここに記すという行為に意味を見いだせず、なかなかに筆が進まぬといった現状である。


しかし、ここに記すということは、彼自身がいつか過去の自分を顧みて、感慨にふけったり自分を鼓舞することに役立つかもしれない。


そこで、彼の近況を何となく記す。



夏が全盛期を迎えていたころ、彼は教員採用試験を受けた。
目的は、「来年本気で受けるための、練習」であった。
したがって、今回は試験のために勉強もまったくしていないし、面接の準備さえやっていなかった。
ところが、である。
彼はなぜか、一次試験に受かってしまった。
これは、彼はおろか周りの人々にとっても予期せぬことであった。
「こんな、ふらっとカフェに立ち寄るような感じで試験を受けたものが、通ってしまってはいけないのではないか。」


一方で、7月。
現在の本業である銀行の業務においても、彼は非常に芳しい結果を出していた。


投資信託の販売額が、7月の一か月だけで5千万円。


これは、彼が9月末までに与えられているノルマの、約半分にあたる額である。
しかも、4〜6月の販売額と合わせると、7月まででこのノルマを達成してしまったことになる。
外交として心配されていた彼がこれだけの結果をあげていることには、彼自身、驚きの色を隠せない。


しかし、この結果を彼自身はこう分析する。
「来期はないと思って、がむしゃらに取れるものはすべて取るというやり方やから、これだけの結果が出てるんや。
いわば、捨て身の方法。
このやり方やったら、来期はまったく取れなくなってしまうはずや。」


支店長はかつて、「7月までにノルマを達成したら、あとは楽に9月を迎えられる。さっさとやってしまおう。」と言った。


結果的に彼は、それを忠実に守ったことになる。


ところが。
彼だけが忠実にノルマを達成しても、それで終わらないところに、誤算があった。


彼が割り振られているのは、店全体のノルマを外交の人数で割った金額である。
つまり、彼だけがノルマを達成しても、店全体としてのノルマはまだまだ達成されておらず、結果として、彼はさらなる成果を求められることになった。


「話が違う!!!」


彼は心の中で叫んだ。

悲しいかな、7月までに必死で成果を上げた彼は、8月、例えるならば空っぽになった生簀に向かって、必死に網を投げ続けることになった。


「なんだかなあ!!!」


彼は照りつける太陽と同じくらい、じりじりとした心持ちになった。


そして、夏がそろそろ終わりに向かおうという頃に、彼は教員採用試験の二次審査を受けた。


非常に、非常に、難しいものであった。

その手ごたえの無さに、彼は少し安心した。


「来年頑張ろう!」


そう思えた。
彼のような者が、ホイホイと通ってしまうような試験では困るのだ。


今年、一次試験の練習で受けたつもりだったが、二次試験まで練習することができたのだ。
運が良かったと考えて、精進することである。



9月になり、彼は相変わらず忙しい。
仕事は決算月でさらに厳しくなった。
例のごとく、休みにはすぐどこかに出かけ、ほとんど家にいない。
いろいろやっていて、睡眠時間が足りなくなることもある。
旅行の計画もあるし、やらなければいけないことも山のようにある。



今年の秋は、どのような秋になるのだろうか。